2024年度 人工知能学会全国大会に参加しました

こんにちは、GMO NIKKOのM.Hです。
この度、第38回人工知能学会全国大会(以下、JSAI大会)に2日間参加してきました。JSAIは日本国内では最大規模となるAI学会の大会となり、1年に1回開催されております。

今回は出展側としてではなく聴講側として参加し、その中で非常に興味深い発表がいくつかありましたので、そのハイライトをいくつかご紹介しようと思います。


はじめに

  • 本記事の内容は筆者の個人的な感想や理解に基づくものです。
  • 本記事で言及している論文・講演に対する認識と理解は全て筆者によるものであり、誤りを含んでいる可能性があります。

JSAI大会について

人工知能学会とは、AIに関する研究の進展と知識の普及を図り、その発展に寄与することを目的として設立された学会です。その学会が開催する全国大会は、主軸となるAIやそれに関連する研究成果の発信や研究のネットワーク形成の場として毎年1回開催されており、最先端のAIの情報を収集することができる機会でもあります。今年は5/28(火) 〜 5/31(金)の4日間、静岡県は浜松で開催されました。筆者はそのうちの28,29日に参加しました。

一言でAIといってもその応用分野は非常に広範であり、機械学習の理論に関わる基礎研究をはじめ、広告マーケティングや言語メディア処理、化学・物理学や医療など、セッションごとにテーマを分けてさまざまな応用分野の研究発表がありました。

以下は会場案内図を撮影したものです。駅近くの会場は普段は大きいコンサートが開催できるような広い施設でした。そのB1Fから5Fまでで同時に発表が行われ、かつ離れたイベントホールでポスターセッションも開催されており、コンテンツ量の多さを改めて実感しました。同一時間帯の別セッションで気になる題目があるときなどは、かなり急いで移動しないと次に間に合うか怪しい場面も…笑

今回の大会の公式リンクは以下のとおりです。

全体所感

今日のAI情勢で話題から外せないものとして生成AIがあると思いますが、やはりそれに絡めた研究や発表が多く見られました。特にLLM(大規模言語モデル)は、プロンプト生成からモデルの評価まで様々な用途で使用されていました。

発表ハイライト

今回のJSAI大会では、多くの興味深い研究発表が行われましたが、その中でも個人的に特に注目した3つの発表についてご紹介いたします。

1. 広告画像の画像処理に基づく感情喚起状態の推定とCTR予測

広告画像が視聴者に与える感情的な影響を定量化し、それがクリック率(CTR)にどのように影響するかを分析する研究でした。この研究では、ラッセルの感情の円環モデルを用いて、valence(快・不快を表す)とarousal(覚醒度を表す)の2つが評価指標として導入されていました。

感情喚起指標推定モデル→CTR予測モデル

Open Affective Standardized Image Set(OASIS)とEmoMadridという画像データセットを使用し、感情喚起指標を予測するモデルを構築。このモデルは、事前学習済みのモデルをファインチューニングして作成され、valenceとarousalを精度高く推定できるものです。そこから更に広告画像のCTRを予測するため、推定されたvalenceとarousalに加え、広告出稿企業の業種ダミーや媒体ダミーなどを説明変数として利用してランダムフォレスト回帰モデルを使用して推定。

所感

特にarousalが低く、valenceがポジティブ寄りな広告画像のCTRが高い。結果としてはそうですよねという感じはしますが、ユーザの感情影響を定量化する手法については新しい知見であり、またユーザへの広告の掲載頻度でも影響を受けるということが非常に興味深かったです。

2. WEBページ訪問履歴情報に基づいた層化による効率的な因果探索手法の検討

この発表では、WEBページの訪問履歴情報を用いて、ユーザの行動パターンを解析するための新しい因果探索手法が提案されていました。従来の因果探索手法(例えばLiNGAM)では計算コストが大きく、結果のグラフも相当複雑になってしまい解釈が難しいです。

層化とAristotle

Aristotleのような層化を用いる手法は、データをグループ化しそのグループ間の因果関係を効率的に探索することでこの課題を軽減できます。発表では「WEBで手続きを完了した群」と「WEBを訪問したがその後に実店舗で手続きを完了した群」に分類し、さらに後者をWEBページの訪問履歴に基づいて複数の層に層化し、層化変数としてページカテゴリや訪問パターンを扱っていました。

所感

時系列的に区分けできるユーザのアクションを層ごとに扱い、計算コストを削減できる手法は発想としてはシンプルながら非常に面白かったです。発表では1/4程度に削減可能とありました。研究背景としてWeb手続き中からの離脱→実店舗来店というユーザの流れが前提にあったので、Web上で完結する場合にデータ特性に応じてマーケティング戦略の最適化かできるのかは個人的に気になりました。

3. 季節性を考慮したプロンプトによるリスティング広告文生成

この研究では、季節ごとに異なる効果的な広告文を自動生成するためのプロンプト作成手法が提案されていました。具体的には、キーワード抽出と最適な時期の決定を行い、季節性を考慮した広告文を生成することを目指しています。

TF-IDFとimpを分析してキーワードリスト化

広告アセットデータからTF-IDFを用いて季節ごとに最適なキーワードを抽出し、さらに抽出したキーワードのインプレッションを分析して最大のインプレッション時期を特定。抽出キーワードとその時期の組み合わせをリスト化します。

その後、抽出したキーワードと季節情報、WEB情報を入力プロンプトとしてLLMに入力して広告文を自動生成します。ROUGEスコアによる自動評価では提案手法の方が低い評価でしたが、人手によるアンケートでは高い評価になっていました。

所感

広告文の生成において、単にキーワードを抽出するだけでなくインプレッションの時期を考慮するという視点は、マーケティング戦略における季節性の重要性を再認識させられました。

まとめ

今回の学会参加は学生時代以来では初めての経験であり、大変多くの刺激を受けました。社会人として参加することで、学生の頃とはまた異なる視点から研究内容やその成果を捉えることができました。特に、広告やマーケティング分野におけるAI技術の最前線に触れることができたことは非常に有意義でした。

次回のJSAI大会では、ぜひ出展・発表側として参加し、私たちの取り組みを紹介できればと考えています。その際には新たな知見を皆さんにシェアしたいと思います!