広告ROIの鍵!マーケティング・ミックス・モデリング入門

こんにちは、GMO NIKKOのT.Sです。
機械学習エンジニアをしております。

最近マーケティング業界で注目されているMMM(マーケティング・ミックス・モデル)について調査したので記事に残したいと思います。

 

マーケティング・ミックス・モデリングとは?


マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)とは、マーケティングに関わる活動(PRやWeb広告)がどれだけ売上やCVに貢献したかを統計的に分析する手法です。
MMMの目的としては、マーケティング活動の費用(原因)とそれによって生じた売上(結果)の関係を解明して、費用対効果を最大化するための戦略を考えることができます。

MMMの数理モデル


MMMの多くはマーケテイング活動と売上の関係性を解明するために、数理モデルによって当てはめをすることによって貢献度などのパラメータを推定します。MMMによってリッジ回帰や階層ベイズなど手法は違いますが、モデル構造は以下のような関係となっております。

売上t = 切片 + トレンドt + 季節要因t + 広告効果t + その他要因t 

トレンドと季節要因は時系列的な要因で、その他要因は天候や経済要因が入ります。

広告効果というものは、この後説明しますが、広告費に対してAdStockと呼ばれる変換をすることで広告効果に変換しています。

 

AdStock


単純に広告費を広告効果として扱ってしまうと、その日の広告費はその日の売上にのみ機能して、費用をかけるだけ売上が伸びるということを仮定してしまうことになります。

しかし、現実では広告の効果が遅れたり蓄積しますし、広告費をかけても売上は青天井に伸びません。

こういった飽和効果ラグ効果を導入するためにAdStockというモデルを使用します。

ラグ効果:Carryover

ラグ効果(MMMではCarryoverと呼ぶ)は、広告の効果が持続して蓄積されるというものをモデル化したものです。

ラグ効果を表す数理モデルには様々なものがありますが、多くのモデルは基本的に過去の費用に係数を乗じる形をとっています。

この係数を決定するのに最も代表的なのは、「減衰率」と呼ばれる単一のパラメータを使用する関数を適用する方法があります。この減衰率θによって次の日に維持する効果量を決定します。

飽和効果:Saturation

飽和効果とは広告への露出が増えるについて、効果があるポイントから減衰することをモデル化します。飽和効果も多くのモデルが存在しますが、単純なものだとパラメータをaとして以下のような数式になります。

時系列要因の抽出


MMMで扱うデータは基本的に時系列データなので、時系列の要因を無視して回帰をしてしまうとうまく効果を推定できません。したがって、目的変数が持つトレンドや季節要因などを時系列解析を用いて推定し、説明変数に入れることによって定常性をもつ時系列データに対して広告効果を推定することができます。
今回は時系列解析については深く触れませんが、ProphetやSARIMAモデルを用いて季節性やトレンドを推定します。

ハイパーパラメータの探索


時系列解析やadStockによって得られた説明変数に対して、重回帰ベースの手法を用いて貢献度などを推定します。重回帰分析では最小二乗法や最尤法を利用して貢献度を推定しますが、時系列解析やadStockに用いるパラメータはハイパーパラメータとして、進化計算やベイズ最適化などの最適化手法を用いて探索します。
したがって、MMMとしての全体構造は以下のようになります。

まとめ


今回はMMMについて調査し、使用されている技術についてまとめました。
時系列要因の考慮やAdStockなど理解可能といえど複雑なモデル構造をしていることがわかりました。
これをゼロから実装するのはかなり大変ですが、世の中にはありがたいことにRobyn(Meta社)やlight wight MMM(google社)などのライブラリが出回っています。モデルの柔軟性は失われますが、ライブラリをインストールしてすぐに使えるのは嬉しいですね。

個人的にMMMの強みは効果が測りづらいオフライン施策とwebなどのオンライン施策を総合的に評価して、予算最適化をできることだと考えています。
一方、線形モデルの単純性や多重共線性などの問題もあり、高度な知識を持って適切な処理をしないと誤った判断をしてしまう可能性もあるので分析の難易度は高めだと思います。

MMM分析を扱う場合は分析チームや実際に広告を運用しているチームが因果構造を正しく把握して、データと向き合いながら妥当性のあるモデルを構築していくことが大切だと思います。